【高瀬舟】~森鴎外からまなぶ~12

みなさん、こんにちは。今回は小説を読むうえで大切な情景描写に注目していきたいと思います。小説の問題で情景描写に線を引かれてこれはなにを意味するか問う問題も多いと思います。高瀬舟の場合は以下のような情景描写があります。

其日は暮方から風が歇
や
んで、空一面を蔽つた薄い雲が、月の輪廓をかすませ、やうやう近寄つて來る夏の温さが、兩岸の土からも、川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた。

空一面を覆った雲があるという表現から少し不穏な空気が見えます。これが罪人が流されるところという不穏なイメージが導かれます。

また、この文で夏ということもわかります。夏は本来明るく活気のある季節というイメージがありますが、ここではその夏の暖かさが「霧になって立ち上る」と表現されていています。そのため、明るさや暖かさよりも、夜の静けさや不気味さが協調されているように感じます。霧が立ち上るかと思われるとあり、それは普段見えないものや隠されたものがあらわれる可能性を示しています。

「かと思われる」という言葉にも注目です。この言葉によって感じてることが曖昧かのように思われます。この曖昧さによって「これから何か起こりそう」「なんとなく不穏」という感覚を強めています。

また、霧は視界を遮って周囲を見えにくくするものなので、これから何が起こるかわからないという不安や不透明さにもつながっています。

また、「両岸の土からも、川床の土からも」と、地面や川底から霧が立ち昇るように描かれていることから、普段は目に見えないものや、隠されているものが表に現れてくるようなイメージも感じられます。この後に罪人が登場することを考えると、これから語られる人間の罪や生死についての問題が少しずつ表面に出てくることを予感させる表現とも考えられるのではないでしょうか。

このように小説の場合は情景描写がたくさんあり、ただ状況を説明しているだけのように見えますが、小説を理解するヒントが多く含まれている可能性があるので注目してみてください。

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